校長ブログ

地球デジタルツイン技術

2025.10.30 教科研究

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 近年、自然災害の激甚化が社会に大きな影を落としています。台風や豪雨による被害は、教育現場や地域社会にも直接的な影響を及ぼします。そのような中で、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が取り組む「地球デジタルツイン」を活用した研究成果は、大きな希望の光を投げかけています。

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 デジタルツインとは、現実世界の情報を仮想空間に再現し、そこでシミュレーションを行う技術のこと。これにより、数カ月先の台風発生や豪雨の可能性を高い精度で予測できるようになりつつあります。従来の技術では困難だった熱帯低気圧の頻度予測にまで道が開けたことは、社会全体の防災力を根本から変える可能性を秘めています。

 世界を見渡せば、欧州では「Destination Earth」、米国ではエヌビディアの「Earth-2」といった大規模なデジタルツイン計画が進められています。これらはいずれも、気候変動の影響を評価し、未来のリスクに備えることを目的としています。日本においても、JAMSTECが中心となり「SINTEX-F」という予測システムを開発し、すでにエルニーニョやインド洋ダイポールモード現象の予測で成果を挙げてきました。

 今回の研究では、過去41年分の気象データをもとにスーパーコンピューター「地球シミュレータ」を駆使し、沖縄・台湾周辺における熱帯低気圧の発生頻度を数カ月前から予測できることが示されました。さらに「大気の川」と呼ばれる水蒸気の流れ込み現象についても、最大7カ月前に予測可能であることが明らかになっています。これは、農業、物流、防災、さらには国や地域の意思決定に直結する画期的な進展です。

 勿論、現段階の技術では限界もあります。予測できるのは現象の発生頻度や傾向であり、具体的な地域や被害規模を正確に見通すことは難しい。しかし、何が予測可能で、何が不可能かを整理し、情報を適切に社会へ伝えていく姿勢こそが、研究者と社会をつなぐ第一歩になると思います。

 教育に携わる者として、この科学的な挑戦から学べることは多いと感じます。即ち、未来を正確に見通すことはできないものの、未来を見据えて備えることはできるという姿勢です。生徒たちに伝えたいのは、知識や技術をただ享受するのではなく、それを社会や人々の暮らしのためにどう活かすかを考える力。科学の進歩がもたらすのは予測そのもの以上に、事前に備える社会を創るための知恵と勇気なのです。

 教育現場からもこの挑戦に呼応していきたいと思います。未来を担う生徒たちが、予測と準備の大切さを理解し、自らの学びを社会に役立てる意欲を育むことこそ、次代の防災と持続可能な社会づくりにつながるのではないでしょうか?