校長ブログ
1秒を問い直す
2025.11.19
教科研究
11月19日
日頃、当たり前のように使っている「1秒」という単位。その長さを決める仕組みが、近い将来大きく変わろうとしています。1967年以来、セシウム原子時計が国際的に標準となってきましたが、科学の進展はさらに高い精度を求めています。その要請に応える形で注目を集めているのが、東京大学の香取秀俊教授によって発明された「光格子時計」です。
光格子時計の特徴は、10の18乗分の1秒という驚異的な精度にあります。セシウム時計の100倍の正確さを誇り、地球上のわずかな重力の違いによる時間の遅れまで検出可能。つまり、東京スカイツリーの展望台と地上階とで時間の進み方が異なることを示したのです。アインシュタインの相対性理論が、実験を通して現代の日本で証明されたわけです。
こうした技術が「1秒の再定義」の有力候補として議論され、2026年に最終候補が決まり、2030年に新しい「1秒」が採択される見通しです。もし光格子時計が採用されれば、日常生活に直結する協定世界時(UTC)にも導入され、スマートフォンの時刻やGPS、さらには高度計測まで影響を与えることになります。
歴史をひもとけば、時間を測る技術は常に人類の営みを支えてきました。日時計や水時計から始まり、振り子時計、そして水晶の振動を利用したクオーツ時計等々...いずれもより正確に、より安定してという探究心の産物でした。今回の光格子時計も、その連なりの中にあります。
教育の現場に身を置く者として心惹かれるのは、この技術が単なる科学的成果にとどまらず、学びの象徴でもある点。「1秒」という誰もが知る当たり前の基準が、実は不断の問い直しと挑戦によって支えられている。これは学問そのものの姿勢を映し出しています。生徒たちにとっても常識を再定義できるのは探究の力であるという気づきにつながるのではないでしょうか?
島津製作所がすでに5億円で市販を始め、NTTは全国に光格子時計を配備する構想を描いています。高度な研究が社会の基盤へと組み込まれていくプロセスを目の当たりにできるのは、まさに今を生きる我々の特権です。
「1秒」は短い。しかし、その短さを極めていくことが、宇宙の法則や人類の未来を切り拓く。教育においても、一つひとつの瞬間にこそ未来を変える可能性が宿っているのだと、改めて感じさせられます。