校長ブログ

英語教育を考える㉚ーAIと書く

2025.11.28 教科研究

11月28日

 本校では、テクノロジーを通して考える力を育てることを推奨しています。AIは学びの終わりではなく、より深い思考の始まりなのです。

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生徒M:最近、ChatGPTを使って英語の作文を書いているんです。文法を直してくれたり、自然な表現を提案してくれたりして、とても便利なんです。でも...それってもう自分の英語じゃない気がして。

校長:なるほど。とてもよい問いだね。Mさんだけでなく、多くの生徒が同じ疑問を感じているよ。ちなみに、ChatGPTを使うとき、まずはどんなふうに始めているの?

生徒M:日本語で書いた文章を入れて、それを英語に直してもらうか、英語で書いて「もっと自然にして」と指示しています。そうすると、すごくきれいな英語になるんです。ちょっと完璧すぎるくらいに。

校長:"Perfect"すぎるのも考えものだね。言語を学ぶ目的は、間違いのない英文を作ることではなく、意味をどう作り出すかを考える力を育てることなんだ。つまり、英作文とは考える行為そのものなんだよ。

生徒M:じゃあ、ChatGPTを使わないほうがいいんですか?

校長:いいえ、使っていいよ。大切なのは「どう使うか」だね。AIの提案をただ写すのではなく、AIのフィードバックをもとに自分で考えながら書き直す生徒の方が、確実に成長するのは自明。AIは答ではなく、思考を映す""と言えるね。

生徒M:鏡、ですか。どうやって鏡として使えばいいんでしょうか?

校長:例えば、「日本の学校はもっと探究的な学びを促すべきだ」と書きたいとするね。君が "Japanese schools should encourage more project-based learning." と書いたとしよう。ChatGPTに「これをもっとよくしてください」と指示すると、"Schools in Japan ought to foster project-based learning to nurture creativity."としてくるかもしれない。ここで終わらせずに、もう一歩踏み込むんだ。「どうして fosterの方がいいの?encourageと何が違うの?」と尋ねてみる。そこから本当の学びが始まるんだよ。修正を受け取るだけでなく、言葉の違いを考察する学習者になるんだ。

生徒M:つまり、ChatGPTは「使う」相手というより「対話する」相手なんですね。

校長:そう。ChatGPTは疲れを知らないAIライティング・コーチのようなもの。AIとのやり取りを通して、自分の思考を振り返るメタ認知的な学習をした生徒ほど、文章の論理性や一貫性が高まるという調査成果もあるようだよ。

生徒M:でも、たまにChatGPTが変な提案をしてくるんです。文が不自然になったり、言いたくないことを勝手に足したりして。

校長:AIには文脈や意図がないんだ。君自身の目的・相手・想いを知らないからね。だから私はいつも「AIに英語を磨かせてもいい。でも、考えは決して譲ってはいけない」って言っているんだ。

生徒M:なるほど...文法をチェックしてもらうときは、どうすればいいですか?

校長:間違いを直してだけじゃなくて、"Please explain why these expressions are incorrect." と指示みるといいよ。それだけで、訂正が指導に変わるんだ。釣った魚をもらうのではなく、魚の釣り方を学ぶということだね。

生徒M:つまり、AIは釣り竿をくれるんですね。

校長:そうだよ。そして慣れてくると、自分で針も作れるようになるんだ。英語教育の目的は、みんながネイティブのように話すことじゃない。自分の考えを、自分の言葉で、世界に伝えられるようになること。それが本当の英語力だよ。

生徒M:校長先生は、これからAIを授業でどう使っていくべきとお考えですか?

校長:理想は、一人ひとりがAIと対話しながら学ぶ個別最適化だね。AIが書き方を助け、学びの記録を残し、そして、教師がそれを読み取り、対話を深めていく。テクノロジー、授業、そして振り返りを有機的に結ぶことこそがカリキュラム・マネジメントにつながるんだよ。

生徒M:人とAI、そして教師と生徒の協働ですね。

校長:その通りだね。教育とは、意味をともに創り出す営みなんだ。AIは君の声を奪うものではなく、君の声を見つける手助けをしてくれる存在だよ。