校長ブログ
英語教育を考える㉖ー言語習得のタイミング
2025.11.08
教科研究
11月8日
臨界期仮説は若い時期に学ぶ方が有利という傾向を示す理論ですが、それはあくまで一側面。近年の研究では「年齢 × 学習環境 × 学習者の特性」の相互作用が注目されています。教育現場に求められるのは、臨界期を理由に諦めるのではなく、各年齢の強みを活かした学び方を提示することです。
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C先生:「臨界期仮説」という言葉を耳にしたんですが、正直、まだよく分からないんです。これは第二言語習得においても重要な考え方なんですか?
校長:臨界期仮説、英語で Critical Period Hypothesis というんだけどね。人間がある年齢までに言語を習得すると、母語話者に近いレベルに到達しやすいという考え方なんだよ。もともとは母語習得に関連して提唱されたんだけど、第二言語習得でもよく議論されるんだ。
C先生:つまり、子供のうちに学べばネイティブ並みになれるけれど、大人になると難しいということですか?
校長:実際、第二言語習得研究では「年齢要因」をめぐる膨大な研究があるんだ。確かに思春期以降に始めた学習者は、ネイティブ並みの音声に到達するのは難しい。でも文法的な正確さや語彙の幅については、学習環境やスタイル次第で高いレベルに到達する例がたくさん報告されているんだ。fossilization(化石化)のリスクはあるけれど、それは必ずしも年齢だけの問題じゃないんだよ。
C先生:なるほど。では、文法や語彙の習得ではどうなんでしょうか?
校長:そこが面白いところ。文法や語彙に関しては、大人の学習者の方が有利な面もあるんだよ。抽象的なルールを理解する力や学習戦略の柔軟さで優れているからね。だから学習開始年齢が遅くても、努力と適切な環境があれば十分高いレベルに到達できる。臨界期仮説を大人は不利だから無駄と解釈しちゃいけないんだよ。
C先生:そう言っていただけると安心します。授業でもう遅いと不安に感じている生徒もいますので。
校長:そうだね。むしろ私たちが伝えるべきなのは、年齢によって得意・不得意の分野が変わるということ。子供は自然な音声習得に強いし、大人は論理的な理解や意識的な練習に強い。それぞれの特性を活かしたカリキュラムを組むのが大切なんだ。
C先生:カリキュラムデザインともつながりますね。
校長:そうだね。最近の研究では、臨界期があるかないかではなく、どの側面にどんな敏感期があるのかを細かく見るようになってきているんだ。音声、文法、語用論、それぞれ違う発達曲線を持っているかもしれない。さらに、ワーキングメモリや感情的要因、学習環境がその発達に影響を与える。つまり、年齢だけじゃ説明できないというのが今の理解に近いんだよ。
C先生:なるほど...年齢の壁というより学習の条件や環境の違いが大きいんですね。
校長:だから教育現場では遅いから無理ではなく、今の年齢だからこそできる学び方があると伝える方が建設的だよ。例えば、高校生なら、自分の興味に基づく読書や討論ができる。大人なら、学びを仕事や生活に結びつけられるという具合かな。いずれにせよ、年齢を前向きに捉える視点が大切だね。
C先生:それなら、生徒にも希望が持てますね。
校長:臨界期仮説を正しく理解することは大事だけど、それ以上に重要なのは誰でも学び続ければ成長できるという教育の基本理念を忘れないことだよ。
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