校長ブログ

通信制高校と普通科高校の共存

2025.11.07 カリキュラム・マネジメント

11月7日

 通信制高校に学ぶ生徒数が2025年度に初めて30万人を超え、過去最多となりました。文科省の調査によれば、前年から5%増加し、全国の高校生に占める割合も1割近くに達しています。戦後、勤労青年の学びの場として設置された通信制高校は、今日では不登校経験をもつ生徒や、芸能・スポーツ活動と学業を両立する生徒、さらには海外大学進学を志す生徒にとって、重要な選択肢となっています。

DSC06106.JPG

 背景には、不登校の拡大があります。小中学校で年間30日以上欠席する児童生徒は23年度に34万人と過去最多を更新し、11年連続で増加しています。コロナ禍以降の生活習慣の乱れや、無理に登校を求めない保護者の意識変化、教員の指導力低下やいじめの増加など、多様な要因が重なっています。こうした状況のもとで、週5日の登校や集団行動に適応しにくい子どもたちが、自分のペースで学べる通信制を選ぶ傾向が強まっています。

 一方で、通信制高校の拡大は教育の新しい可能性を開いています。構造改革特区を契機に私立校が急増し、25年度には学校数が20年前のほぼ倍となる332校に達しました。総合型選抜の拡大や通信制大学の設置により、大学進学の道も広がっています。生徒の個性や活動を尊重する学びの在り方として、通信制は社会における役割を一層高めているといえます。

 ただし、量的拡大の陰で質の保証は深刻な課題です。2016年には、生徒がテーマパークで買い物をするだけで数学を履修したと認められた事例が報道されるなど、学習の形骸化が指摘されました。教員数の不足や施設不備も複数の学校で確認されています。文科省は2023年、都道府県に対し新たな認可基準を設け、定員管理や教職員数、いじめ防止の取り組みを含めて厳格な審査を求めました。また、今年度中には通信制高校の情報発信サイトが開設され、授業料や中退率といった情報に誰もがアクセスできるようになります。

 重要なのは、通信制高校と普通科高校との共存です。通信制は不登校生徒の受け皿という側面だけでなく、自己のペースで学びたい、学外活動と両立したいという多様なニーズに応える教育形態です。一方、普通科高校は日常的な登校や集団活動を通じて社会性を育む役割を果たしています。その意味で、両者は補完し合う存在として共存すべきです。その実践例として、本校では、ICTを活用した遠隔協働学習や国際オンライン交流を展開し、海外大学進学や多文化共生を視野に入れた教育を実践しています。普通科に軸足を置きながら、通信制的な柔軟さを取り込んでいる点は、共存の新しいモデルと言えるはずです。

 通信制高校の急拡大は、教育の質、制度設計、そして普通科との共存を同時に考える契機となっています。私たちは一人ひとりの子どもにふさわしい学びを保障し、多様な進路を拓く教育を未来に向けて築いていかなければなりません。