校長ブログ

デジタル教科書

2025.11.11 EdTech教育

11月11日

 中教審の作業部会は、デジタル教科書を正式な教科書として認める最終まとめを了承しました。これまで学校教育法では紙の教科書のみを正式な教科書とし、一部で使われてきたデジタル教科書は紙と同じ内容を電子化した「代替教材」という位置づけでした。今回の正式化により、デジタル教科書も無償配布の対象となり、学習端末で読みやすいように最適化されます。さらに、英単語の音声や理科の実験動画を手軽に利用できるようになり、生徒の理解や関心の深化が期待されています。しかし、それがそのまま学力向上につながるかどうかは別問題であり、結局は教員の力量が学びの質を左右すると言えます。

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 最終まとめでは、教育委員会が、① 紙、② デジタル、③ 学習内容を紙とデジタルに分けて掲載するハイブリッドの三つの形態から選択できるとし、導入は2030年度頃からが見据えてられています。確かに、デジタルならではの教材機能は魅力的ですが、それを授業の中でどう位置づけ、どのように学習活動へ結びつけるかは教員の実践にかかっています。

 海外の事例を見ると、各国で模索が続けられていることがわかります。エストニアは早くからデジタル教科書を導入し、OECDのPISA調査でトップレベルに躍進しました。米国でも28州がデジタル教科書を法的に位置づけ、ニュージャージー州の高校調査では成績向上や学習意欲の維持といった効果が報告されています。しかし一方で、スウェーデンは基礎的な読み書きや計算力の低下を懸念し、紙を重視する方向へ政策転換しました。(日本貿易振興機構)韓国でも、学力の伸びやデジタル依存症への不安から導入を見直す動きが出ています。このように、デジタル化は万能の解決策ではなく、成果も課題も運用次第で大きく分かれるのです。

 日本の現状を見れば、課題は明白です。文科省によれば、デジタル教科書に関する研修を受けた教員はわずか2割にとどまり、その多くは講義形式です。模擬授業やワークショップといった実践的な研修が不足しています。準備が不十分なまま導入すれば、せっかくの機能も動画を見せるだけにとどまり、生徒は受け身になり、集中力を損なう危険すらあります。

 これからの学校教育に必要なのは、「紙かデジタルか」という二項対立を超えることです。社会が急速にデジタル化する中で、生徒は紙とデジタルの両方から情報を読み取り、活用する力を育まなければなりません。そのために重要なのは、教師の授業設計力、教材編集力、そしてICTを活かして学びを生徒たち自身のものへと変えていく力量です。

 デジタル教科書の正式化は、教育の可能性を広げるための大きな一歩。しかし、それを真に生徒の学力や資質向上へとつなげるのは、現場の教師一人ひとりの実践に他なりません。研修や校内での協働を通じて力量を磨き続けること、そして、その積み重ねの先にこそ、紙とデジタルを自在に行き来できる新しい学びの姿が形づくられるのではないでしょうか?