校長ブログ
生涯を通じてのウェルビーイングを考える
2025.11.21
教科研究
11月21日
スポーツ庁が発表した2024年度の体力・運動能力調査の結果に注目しました。そこには、私たちの社会の変化を映す興味深い傾向が示されています。特に70代の体力がこの30年間で大きく向上し、平均より高い水準にある人の割合が倍増しているというのです。一方で、30代の体力は伸び悩み、世代間のバランスに課題が見えます。
この調査は全国の約5万9千人を対象に行われ、握力や上体起こしなどの結果をもとにA〜Eの5段階で評価されています。70代では、男性の65%、女性の67%が「AまたはB」という高評価を得ており、これは全世代で最も高い数値です。20数年前と比べても、男性で29ポイント、女性で36ポイントの上昇。平均握力も男女ともに増加し、筋力の維持・向上が顕著です。
背景には、「年齢を重ねても体を動かし続ける」という考え方が社会全体に根付いてきたことがあるようです。週1回以上スポーツを行う人の割合は、今や70代で68%に達し、10代を上回るというのですから驚きです。順天堂大学の鈴木宏哉教授は、「シニア世代にも運動が必要だという考え方が過去30年で社会に定着した影響が大きい」と述べられています。
1960年代から欧米で進んだ健康科学の研究は、1970年代以降、日本にも広がりました。「健康は自らつくるもの」という意識が高まり、国や自治体の健康増進施策、地域スポーツの充実、そして生涯学習の発展が、今日のシニア層の体力向上を支えています。
この結果を、単なる体力データとしてではなく、「学び続ける力」「自律した生き方」の象徴として受けとめたく思います。高齢期においても新しいことに挑戦し、自分の体や心をより良く保とうとする姿勢は、教育における"生涯にわたる学び"そのものです。
その一方で、若い世代の体力低下には、運動時間の減少や生活スタイルの変化が影響していると言われます。デジタル社会を生きる私たちにとって、身体を動かすことは、心の健康を支える大切な基盤でもあります。本校でもICTの活用が進む中、あえて「体を使って学ぶ」場を意識的に設け、バランスの取れた教育を心がけています。
ウェルビーイングとは、単に健康であることではなく、身体・心・社会的つながりの調和が取れている状態を指します。今回の調査結果は、まさにその重要性を再認識させてくれます。年齢を問わず、自分のペースで体を動かし、心を整え、学びを続ける。そうした生き方を、学校教育から社会全体に広げていきたいと思います。