校長ブログ
犬と人間の共生から見えるもの
2025.11.27
教科研究
11月27日
人間は太古の昔から犬とともに生きてきました。狩りを助け、危険を知らせ、孤独を癒やしてきたのです。その関係は、単なる「飼う・飼われる」を超えた深い絆でした。しかし、現代の人間が犬に注ぐ愛情は、時に思わぬかたちでその命を傷つけているのかもしれません。
近年の科学研究は、人間が「かわいらしさ」を追い求めて行ってきた品種改良の副作用を明らかにしています。コーネル大学(米)などの研究チームは、約1,800頭の犬と猫の頭蓋骨をCT解析し、驚くべき結果を示しました。小型犬のパグの頭の形は、祖先であるオオカミよりもペルシャ猫に近いというのです。5,000万年前に分かれたはずの犬と猫二つの種が、人間の選抜によって再び似てきている。この進化の逆行は、愛情の名のもとに行われた人為的な変化に他なりません。
その代償は小さくありません。ドッグス・トラスト(英)が58万匹の犬を調査したところ、平たい顔を持つ犬種の平均寿命は約1割短いと報告されています。呼吸が苦しく、体に大きな負担がかかるためです。さらにダラム大学(英)の研究では、顔が平たい犬ほど、仲間との感情表現が苦手になる傾向があることも明らかになりました。表情を作る筋肉の構造が変わり、喜びや不安を伝えることさえ難しくなっているのです。
「かわいいから」という理由で改良を重ねるうちに、犬たちは健康も、感情を伝える力も奪われつつあります。野村哲郎氏(京都産業大学教授)は「人間の好みだけで動物を作り替えるのは健全ではない」と警鐘を鳴らします。人間中心の価値観が、いつしか命の多様性や尊厳を脅かしているのです。
この現象は、教育にも通じるところがあります。私たちはしばしば「こうあるべき子ども像」を求めすぎるあまり、個々の子の本来の力を見失ってしまうことがあります。犬の品種改良が示すのは、外見的なかわいさではなく、本質的な生きる力をどう支えるかという問いなのです。
愛情とは、相手を自分の理想に近づけることではなく、ありのままを理解し、尊重すること。犬との共生の歴史がそう教えてくれるように、教育もまた、個々の生命をそのままに輝かせる方向へ歩みを進めたい。人間の愛情が生んだ影の部分に目を向けるとき、初めて本当の意味での共生が始まるのではないでしょうか?