校長ブログ

生命を育み続けてきた海

2025.11.26 教科研究

11月26日

 海は人類にとって、地球環境にとって、巨大な「炭素の貯蔵庫」としての役割を担ってきました。しかし今、その海に異変が生じています。大気中のCO₂を吸収し続けてきた働きが弱まりつつあり、温暖化をさらに加速させる恐れがあるのです。近年の科学的研究は、海水の酸性化やマイクロプラスチックの増加がその大きな要因であると警告しています。

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 例えば、中国・アモイ大学の研究では、21世紀末までに海のCO₂吸収量が10%減少する可能性が指摘されました。これは学術誌PNASに発表され、専門家に衝撃を与えました。産業革命以降の人類の活動でCO₂濃度は420ppmを超え、1850年代に比べて5割増加。その4分の1が海に溶け込み、海水は酸性化しました。この酸性化が植物プランクトンの骨格形成を阻み、生存や繁殖を難しくしています。研究は、もし2100年に大気中CO₂が700ppmに達すれば、熱帯や亜熱帯の海で植物プランクトンが減少し、年間183億トンものCO₂吸収が失われると示しました。これは日本の年間排出量の18倍に相当します。

 植物プランクトンは、CO₂を光合成で炭素に変換し、魚へと食物連鎖を通じて炭素を蓄えさせます。その死骸は深海に沈み、さらなるCO₂吸収を可能にします。けれども酸性化や温暖化による海流の弱まりがこの循環を妨げれば、海の「炭素貯蔵庫」としての機能は大きく損なわれます。実際、ドイツのハンブルグ大学の研究は、2100年には温暖化の影響で海流が弱まり、年間最大455億トンものCO₂吸収が失われる可能性を指摘しました。これは世界全体の化石燃料由来の排出量に匹敵する規模です。

 さらに深刻なのが、マイクロプラスチックの問題です。プラスチックごみが砕けて微粒子となり、海面から水深5000メートルにまで広がっていることが確認されています。軽いプラスチック粒子を取り込んだ植物プランクトンは沈みにくくなり、海底への炭素輸送が滞ります。その結果、海の栄養循環が乱れ、CO₂吸収の能力までも低下しかねません。

 これらの研究は、明確な問いを投げかけています。生命を育み続けてきた海が壊れつつあるという現実を前に、どう行動すべきか?ごみを減らし、海を守る具体的な実践が、地球全体の未来を守ることにつながります。教育の現場でも、こうした科学的知見を生徒たちに伝え、問題を「自分ごと」として考える機会を保障していく必要があります。海の変化は決して遠い世界の出来事ではなく、私たちの暮らしと直結しているのです。