校長ブログ

英語教育を考える㉙ー用法基盤アプローチとデータ駆動学習

2025.11.25 教科研究

11月25日
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学生:この前の授業で出てきた用法基盤アプローチとデータ駆動学習って、正直まだピンときていません。どう違うんですか?

校長:よい質問だね。少し噛み砕いて説明してみよう。用法基盤アプローチというのは、言語は使うことによって習得される、という考え方なんだ。つまり、最初から抽象的な文法ルールを覚えるのではなく、実際に使われている表現やパターンを繰り返し経験することで自然に気づいていく、という立場なんだよ。

学生:なるほど。赤ちゃんが母語を覚えるときに、文法を習っていないのに話せるようになるのと似ていますね。

校長:そうそう。そして第2言語の習得でも同じように使用の蓄積が大切だと考えるのが、このアプローチの特徴なんだ。もちろん大人の場合は意識的な学習も役立つけど、根本にあるのはやはり「使用」だね。

学生:では、データ駆動学習はどう関わってくるんですか?

校長:データ駆動学習は、学習者自身が実際の言語データ、つまりコーパスを調べながら学ぶ方法だよ。例えば、ある単語の使い方を知りたいときに、辞書を見るだけではなく、数千件の実際の用例を検索して「この語はこんな文脈でよく使われるのか」と発見していく。まさにデータから学ぶ方法なんだ。

学生:なるほど。用法基盤アプローチが理論的な枠組みで、データ駆動学習はその理論を具体的に実践する方法、というイメージですか?

校長:よい整理だね。用法基盤アプローチは言語は使用に基づいて習得されるという大きな考え方で、データ駆動学習はその考えを授業で形にした実践方法だと言えるよ。

学生:でも、正直に言うと、コーパス検索って難しそうです。英語の新聞記事や論文を何百例も見るなんて、ちょっとハードルが高い気がします。

校長:そこが教師の工夫のしどころだね。必ずしも生のコーパスを直接触らせる必要はないんだ。教師があらかじめコーパスから典型的な用例を抽出して、カード形式や小さなデータ集にして提示すれば、学習者は十分にデータに基づいて気づく体験ができる。例えば 、commit a crime と commit a mistake の用例頻度を見比べるだけでも、「なるほど!この動詞はこういう名詞と結びつくんだ」と理解が深まるよ。

学生:それなら実践できそうですね。

校長:さらに最近はAIがここを助けてくれるようになった。ChatGPTのようなツールを使えば、大量の用例から学習者に合った例文を生成したり、頻度の高いコロケーションを一覧にして提示したりできる。これはまさに、用法基盤アプローチとデータ駆動学習を掛け合わせた新しい形だと言えるね。

学生:面白いですね。でもAIに頼りすぎると、学習者が自分で気づく力を失ってしまうのでは?

校長:その懸念は大事だよ。AIはあくまで用例を整理するアシスタントであって、学びの主体は学生自身なんだ。私たち教師の役割は、AIやコーパスが示すデータをどう解釈し、どう一般化するかという過程を支援すること。つまり、気づきの促進者としての立場なんだね。

学生:なるほど。授業では、AIやコーパスが出してくれた用例を材料にして、生徒同士で「どのような使い方が多いか」「どういう文脈で自然か」を話し合うようにすればいいんですね。

校長:その通り。こうした学び方は、単に知識を覚えるのではなく自分で見つけた発見が伴うから、記憶に残りやすく応用力も育つ。言語習得研究の最先端でも、この用法基盤+データ駆動学習+AI活用の流れが注目されているんだ。

学生:理論と実践がつながると、すごくイメージしやすいです。ありがとうございました。

校長:言語教育は知識だけでなく、気づきをどう支援するかが勝負。その視点で、また授業デザインを一緒に考えていきましょう。