校長ブログ

クラシック音楽と学びの広がり

2025.12.05 トレンド情報

12月5日

 コロナ禍は、教育も社会も大きく揺さぶりました。クラシック音楽の世界も例外ではありません。とりわけピアニストたちにとっては、配信という新しい出会いの場が生まれ、これまでとは異なるファン層が流れ込むようになりました。コンクールの様子を自宅で視聴できるようになったことは、クラシック音楽を「専門的な人のための文化」から「誰もが参加できる文化」へと押し広げたと言えるでしょう。

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 その代表例がショパン国際ピアノコンクール。5年に一度の晴れ舞台をオンラインで追ううちに、「推しのピアニスト」を見つけ、演奏を日常的に楽しむ人が増えました。この現象は、教育における「学びを身近に感じる瞬間」によく似ています。偶然の出会いが生涯の学びへとつながることは、教室の中でも起こり得るのです。

 近年、日本人ピアニストの活躍は目覚ましいものがあります。角野隼斗さんの多彩なアプローチ、藤田真央さんや反田恭平さんの国際的な挑戦。こうした存在は、若い世代にとって憧れやモデルとなっています。教育においても、身近に具体的なロールモデルが存在することが、生徒の可能性を大きく引き出す原動力になります。

 国内の状況を振り返ると、1990年代以降、浜松や仙台などで国際コンクールが誕生し、そこを経てショパン・コンクールへ挑戦する道筋が整いました。ピアノ教師の団体も、有能な若者が途中で辞めない仕組みづくりに取り組みました。さらに、クラシック音楽を題材とした漫画やドラマが、若い世代のイメージアップに寄与したことも見逃せません。辻井伸行さん、務川慧悟さん、阪田知樹さん、亀井聖矢さん、牛田智大さんといった新しい世代のスターたちは、下の世代にとって目標となり、挑戦への意欲を引き出してきました。

 ピアノの国際コンクールは、世界のどこかで毎月のように開催されています。その中でも「三大コンクール」とされるのは、ポーランドのショパン国際ピアノコンクール、ベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクール(ピアノ部門)、そしてロシアのチャイコフスキー国際コンクール(ピアノ部門)です。近年はアジア系の活躍が際立ち、2015年のチョ・ソンジン(韓国)、2021年のブルース・リウ(中国系カナダ人)の優勝、2025年のエリザベート・コンクールでの久末航さんの2位入賞などが記憶に新しいところです。

 なぜコンクールが重要なのかといえば、上位入賞が世界ツアーや本格的デビューにつながる可能性が高いからです。特に日本や韓国、中国の聴衆は受賞歴を重視するため、アジア勢の挑戦は極めて積極的です。年齢制限が多くの場合、30歳であることもあり、若手にとっては「一度きりの真剣勝負」となります。もちろんコンクールと無縁の奏者もいますが、配信によって全世界に届けられるようになった現在、出場そのものが大きな宣伝効果を持つ時代に変わっています。ここにも結果だけではなく、過程に価値を見いだすという教育的視点が重なって見えてきます。

 今年のショパン・コンクールはすでに予備予選が配信され、ネット上で大きな盛り上がりを見せています。本大会には、日本にルーツを持つ奏者が13人出場とか。最大の特徴は、全出場者の約3分の1を中国勢が占める点でしょう。一方で、ウクライナ侵攻の影響もありロシアからの出場は激減しました。音楽の舞台ですら、国際社会の動向と無縁ではないことを改めて感じさせられます。

 クラシック音楽の変化は、教育の在り方に通じるものがあります。ICTの活用や学びの多様化と同じように、音楽もまた新しい地平を切り拓いています。今年もまた新しいスターが誕生するでしょう。その姿を見守りながら、私たちも生徒に「学びの可能性は限りなく広がっている」というメッセージを伝え続けたいと思います。