校長ブログ
世界水準の科学技術人材を地方から
2025.12.01
トレンド情報
12月1日
高校段階から科学技術人材の育成を進めるスーパーサイエンスハイスクール(SSH)が、今、地方を中心に着実な成果を上げています。文科省が教育水準を認めて指定するこの制度は、2002年度の創設から20年で3倍に拡大し、2025年度には全国230校、全高校の4.8%を占める規模にまで成長しました。指定校には年600万~1200万円の補助があり、海外視察や企業連携を通して、生徒が自ら研究テーマを立ち上げ、深く学びを追究することを後押ししています。
注目すべきは、福井、鳥取、奈良、徳島といった地方圏の存在感。特に、福井県では、県立高校4校がSSHに指定され、専門コーディネーターの配置や教員の人事交流によるノウハウ共有など、自治体と学校が一体となった取り組みが進んできました。小さな町工場が多く製造業比率の高い地域だからこそ、理数教育の充実が地域の競争力を高める基盤になるという視点です。
その成果は具体的に現れています。若狭高校の生徒が開発したサバ缶は、2018年に宇宙食として認証され、実際に国際宇宙ステーションで宇宙飛行士が口にしました。地元の資源を科学的に探究し、宇宙という最先端の現場につなげた実例は、地域教育の可能性を雄弁に物語っています。また、藤島高校出身の吉川健人さんは、JAXAで「はやぶさ2」の開発に携わり、次世代の宇宙探査計画にも参画しています。高校時代の学びが未来の科学者を生み出す―SSHの理念が形となった象徴的な事例です。
SSHの効果は進路選択にも表れています。福井県の調査では、SSH指定校の生徒が理系を選ぶ割合は55%と、他校より17ポイント高いことが明らかになりました。修士・博士課程に進む割合も高く、研究者や技術者を志す若者が着実に育っています。さらに、近年は海外高校との共同研究も進み、オンラインを活用した国際的な協働学習が広がりつつあります。
愛媛県の松山南高校も、SSH創設当初からの指定校として長年の成果を積み重ねてきました。大学との緊密な連携に加え、卒業生が後輩を指導するメンター制度を立ち上げるなど、学びの循環が地域に根付いています。研究成果が産業や農業に波及し、地場産業と新しい価値を生み出す動きも生まれています。
文科省の審議会では、今後さらに意欲的な指定校への重点支援を打ち出しています。京都大学の楠見孝教授は、研究マインドをもって大学に進学する学生が増えたことを評価し、今後は「指定を受けた高校にとどまらず周辺の高校にも好影響が及ぶ連携を各地で広げることが求められる」と述べられています。
SSHの取り組みは、地方から未来を切り拓く教育の実験場とも言えます。高校生が世界を相手に研究を深め、その成果を地域に還元していく。この循環こそ、次世代を担う人材育成の核心です。教育は地域を変え、地域から世界を変える―そのダイナミズムを、SSHは確かに示しています。