校長ブログ
東アジアの台頭と日本の研究力
2025.12.02
グローバル教育
12月2日
『Times Higher Education(THE)』(英)が発表した最新の世界大学ランキングで、東京大学が26位に上昇しました。東アジアの大学が軒並み順位を上げ、中国の清華大学と北京大学が世界のトップ15に入るなど、アジア勢の存在感が年々高まっています。欧米の名門校が依然として上位を占める一方で、その地盤は確実に動き始めています。教育・研究・国際性という指標において、アジアの大学が新しい知の潮流をつくりつつあることを示す結果といえるでしょう。
THEは、日本の大学について研究の質の指標で改善を評価しながらも、上位ランクでの存在感がやや低下と分析しています。つまり、基盤的な努力は評価されているものの、国際的な発信力や研究資金の集中度に課題が残るということです。研究に没頭する時間をどう確保し、若手が挑戦できる環境をどう整えるかが問われています。
この点について、今年ノーベル化学賞を受賞された京都大学・北川進特別教授の言葉が印象的です。北川教授は、「日本人のノーベル賞はまだまだ出てくる」としつつも、研究に専念できる時間の確保と支援体制の充実が急務と述べられています。実験のデータ解析や研究支援スタッフの存在が、成果を左右する時代。研究の「個人技」から「チーム力」への転換が、世界ではすでに進んでいるのです。
日本では、才能ある若手が任期付き雇用や資金不足によって研究を中断せざるを得ないケースも少なくありません。教育現場に身を置く者としても、これは他人事ではありません。子どもたちに探究心を育むためには、教師自身が「探究する文化」に触れ続ける必要があります。その文化の源流にあるのが、大学や研究機関での自由で持続的な研究活動です。
北川教授が研究した金属有機構造体(MOF)は、CO₂の分離・貯蔵など脱炭素社会の実現にも直結するテーマ。研究が社会課題の解決と結びつき、企業や地域を巻き込んでいく。まさにこれからの時代の知のモデルといえるでしょう。
教育もまた同じです。教室での学びが社会とつながり、学ぶことが未来の創造につながる。そのためにこそ、学校もまた「研究する組織」であり続けるべきだと感じます。知の中心が東アジアへと移行しつつある今、日本の教育と研究は「探究の再構築」という次のフェーズに入っています。世界に開かれた学びと、現場から生まれる知の力を期待したいと思います。