校長ブログ

英語教育を考える㉛ー動機づけ

2025.12.03 教科研究

123日

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教員:最近の英語教育の研究では、"動機づけ"の捉え方がかなり変わってきていると聞きました。モチベーションを上げよう!という掛け声だけでは足りないとか...

校長:そうですね。昔はやる気を引き出すという発想が中心でしたが、今はどうすれば意欲が持続し、行動につながるかが重視されています。最近の研究では、学習者の理想の自己像(ideal L2 self)や義務的自己像(ought-to L2 self)だけでなく、学びの過程での楽しさ(Enjoyment)や自己調整学習(Self-Regulated Learning)の力が注目されています。

教員:楽しさ、ですか。楽しさって、英語の授業でそんなに大事なんでしょうか?

校長:非常に重要です。先行研究では、楽しさが英語を話す意欲や継続的な学習行動を最も強く予測する要因のひとつと報告されています。一方、不安(Anxiety)は抑制的に働きます。つまり、安心して間違えられる環境をつくることが、結果的に学力向上にもつながるんです。

教員:確かに、生徒たちが間違いを恐れずに話せる雰囲気づくりは大切ですよね。でも、現実の授業では"やる気の波"が激しくて...テスト前だけ頑張る生徒も多いです。

校長:そこが新しい研究の焦点です。動機づけは固定的ではなく、時間とともに変動することがわかっています。授業中でも上がる瞬間・下がる瞬間がある。ですから、教師がその変化を感じ取って、小さな成功体験を積ませる仕掛けを入れると効果的です。経験サンプリング法という研究法で、生徒の動機の上下をリアルタイムに測定する試みも進んでいます。

教員:なるほど。日々の授業で、今、モチベーションが上がっているかを意識するということですね。

校長:そうです。そして、もう一つ大切なのは自己調整学習の視点です。動機を高めるだけでなく、生徒自身が目標を立て、やり方を選び、自分の学びを振り返る力を育てること。研究でも、自己調整学習を支える習慣を持つ生徒は、意欲の浮き沈みがあっても学習を続けやすいと示されています。

教員:実際にはどんな取り組みが有効でしょうか?

校長:簡単なもので構いません。授業の最初に今日の目標を一文書かせて、最後にどのくらい達成できたかを自己評価させる。あるいは、授業後に、今日楽しかったことをひとつ書こうと振り返らせる。これだけで楽しさと自己調整の両方を刺激できます。モチベーションを上げるというより、"整える"という感覚ですね。

教員:なるほど。小さな積み重ねを通して、自分の学びを自覚させるということですね。家庭や周囲の支援も関係しますか?

校長:もちろんです。研究では、親や教師からの情緒的・経済的支援が、理想の英語自己像の形成に強く影響することも確認されています。学校と家庭が協働して同じ方向を向くことで、生徒は自分の成長を実感しやすくなります。

教員:動機づけは心の問題だと思っていましたが、実は設計の問題でもあるんですね。

校長:まさにその通りです。動機づけは偶然ではなく、仕組みと関係性で育つもの。教師が生徒のスモールステップを見逃さず、楽しさや安心を設計すること。そこに科学的裏付けがようやく追いついてきたということです。

教員:なるほど...やる気を出させるからやる気を支えるへ。これが新しい動機づけの時代なんですね。

校長:ええ。教師の声かけひとつ、課題設計ひとつが、生徒の英語人生を変えるかもしれません。動機づけとは、結局、"信頼のデザイン"なのです。