校長ブログ

デジタル学生証

2025.12.04 EdTech教育

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 ソニーグループ傘下のフェリカネットワークスが、2026年度から「デジタル学生証」事業を本格的に始めると発表しました。非接触型IC技術である「フェリカ」を軸に交通や決済の分野を牽引してきた同社が、次のステージとして大学教育のデジタル化に挑むのです。

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 デジタル学生証は、単なる身分証明の代替にとどまりません。学生自身が許可した情報を、大学や企業、飲食店などと安全に共有できる仕組みを整え、学びと社会との接続をスムーズにすることを目指しています。国際標準規格「mdoc」を採用することで、マイナンバーカードにも通じるセキュアな情報管理が可能となり、国際展開も視野に入れています。

 この動きが教育現場にもたらすインパクトは大きいでしょう。例えば、大学間連携による単位互換や履修状況の確認、図書の貸出管理など、これまで煩雑だった事務作業が一気に効率化されます。職員の業務負担が軽くなるだけでなく、学生が学外での学びに参加しやすくなり、学修の自由度が広がります。また、企業にとってもインターンや採用活動における本人確認や情報照会がスムーズになり、学生と社会の接点が増えていくことが期待されます。

 関西ではすでにJR西日本や阪急電鉄がデジタル学生証による定期券発行に対応を始めており、大阪大学では建物の入退館や試験時の本人確認などで実証が進められています。今後、大学のDX推進において「学生証」がハブの役割を果たす時代が来るのではないでしょうか?

 もちろん、課題もあります。複数のOSに対応し、どの端末でも同じように使える環境整備は不可欠ですし、海外の取り組みとも連携していく必要があります。欧州連合が進める「欧州学生証イニシアチブ」との接続可能性や、国際学生証(ISIC)との機能的な違いなど、グローバルな視点も欠かせません。

 それでもこの挑戦が「教育のデジタルトランスフォーメーション」を加速させる大きな契機になると思います。これまで紙やカードで管理されていたものが、学生のスマホ一つで完結する。そこに学習履歴や資格、活動記録が安全に統合されれば、学びのポートフォリオは一層豊かになります。それは、学生一人ひとりの成長を社会とつなぐ「学びのパスポート」としての役割を担うでしょう。

 教育の未来は、こうしたテクノロジーの力と、現場の創意工夫が掛け合わさるところに拓けていきます。フェリカネットワークスの取り組みは、日本の大学におけるデジタル化の遅れを一気に挽回する可能性を秘めています。教育関係者も、この動きを他人事とせず、どのように現場に活かすかを主体的に考えていきたいものです。