校長ブログ
見えない潜在力
2025.12.12
トレンド情報
12月12日
今、日本の社会には、静かに、しかし確かな「潜在力」が眠っています。総務省の最新データによると、国内の専業主婦は約500万人。そのうち、働くことを希望する人が100万人を超え、労働力人口の約2%に相当するそうです。大阪市と名古屋市の人口を合わせた規模に匹敵する数字であり、人手不足が深刻化する中、この存在は決して小さくありません。
東京大学の近藤絢子教授は、就業を妨げる大きな要因として、家庭内の無償労働の偏りを指摘しています。日本では家事や育児などに費やす時間が男性の約5倍にのぼるといわれます。社会の仕組みのどこかで、働くことと家庭を担うことの両立が難しくなっているのです。
一方で、非正規でしか働けないなら、あえて就業を選ばないという層もあると言われます。女性の正規雇用率は20代後半をピークに下がり続ける「L字カーブ」を描いており、制度と意識の両面で課題が残っています。
では、どうすればこの「眠れる100万人」の力を社会の活力へと変えられるのでしょうか?大切なのは、一律の就業支援ではなく、一人ひとりの事情や希望に寄り添うことです。家事や育児、介護、健康など、事情は様々ですが、働きたいという思いには共通して社会に関わりたいという意欲があります。その意欲に対して、学び直しの機会や柔軟な働き方の選択肢を用意することが、社会の再生産力を高める第一歩になるはずです。
教育の現場でも、同じような構図が見られます。子どもたちの学びの速度や深まり方はそれぞれ異なります。すぐに理解する子もいれば、時間をかけて理解が定着する子もいます。大切なのは、今、わからないことを否定せず、可能性の芽として丁寧に支えることです。学び直しの時間を確保し、教員が専門性を発揮できる環境を整えることが、これからの学校の使命だと思います。
専業主婦の就業支援と子どもの学び支援は、一見異なるテーマですが、どちらも「もう一度、挑戦してみよう」と思える社会をつくるという点で共通しています。それは制度の問題であると同時に、私たち一人ひとりのまなざしの問題でもあります。人は誰もが、何歳になっても学び直すことができます。そして、学び直す姿こそが、次の世代への最大の教育のではないでしょうか?