校長ブログ
英語教育を考える㉝ー誤答分析
2025.12.13
教科研究
12月13日
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校長:A先生、最近、誤答分析の研究と教育実践がずいぶん進んでいるようだね。どんな印象を持っているの?
A先生:はい。以前はどこを間違えたかを確認するための作業というイメージでした。でも最近は、もっと深い意味を持つようになってきていると感じます。
校長:その通りだよ。誤答を失敗ではなく、発達の途中にある言語のかたちとして見る考え方が広がってきているんだ。中間言語の発達を示す大事な手がかりなんだよ。各種検定の分析でも、誤りの数じゃなくて性質の変化が注目されているんだ。
A先生:性質の変化ですか?
校長:そうそう。例えばね、初期の段階では文法的な誤りが多い生徒が、次第に語用論的な誤り、つまり、場面に合わない表現をするようになる。これは、言語使用の幅が広がっている証拠なんだ。誤答を足りない力と見るんじゃなくて、次の発達段階を示すサインとして捉えるといいんだよ。
A先生:なるほど...AIを使った誤答分析も進んでいると聞きますが、具体的にはどういうことですか?
校長:Grammarly や Write & Improve なんかのツールを使うとね、生徒の作文データを自動で分類して、傾向を見える化できるようになっているんだ。最近は生成AIが誤答を再現することまでできるようになってきていてね。生徒がしそうな誤りをAIが再生成して、それをもとに教師が教材を設計する。つまり、誤答を予測して、指導を先取りできる時代になってきたんだよ。
A先生:誤答を先読みして教材化するとは...すごいですね。でも、誤りの原因って、やはり知識不足が中心なんでしょうか?
校長:それがね、ちょっと違うんだ。誤答の背景には、認知的負荷とかワーキングメモリの限界があることが分かってきている。つまり、正しい文を作る知識はあるのに、発話や作文の途中で処理が追いつかなくて一時的に崩れてしまうんだよ。誤答は、思考がちゃんと働いている証拠なんだ。だから、誤りを避けるより誤りを通して考える授業のほうが、学習者の認知力を伸ばすんだよね。
A先生:確かに、作文中に"うっかり"のような誤りも多いですね。最近、ペアでお互いの英文を見合って修正する活動をやっているのですが、これが結構盛り上がります。
校長:それはとてもよい実践だね。いま注目されている"協働的誤答分析"そのものだよ。生徒同士で"なぜそうなったのか"を考え合うのは、単なる添削じゃなくて、言語の使い方を探る対話になるんだ。誤答を通してメタ言語意識もぐっと高まるからね。
A先生:最近は、文法の間違いよりも、表現の使い方の誤りが増えている気がします。依頼とか、意見の言い方とか...
校長:まさにそこが今の焦点なんだよ。文法的誤りより、語用論的誤り─つまり、場面に合った表現ができているかどうかの重要性が高まっている。Can you〜?と Could you possibly〜?はどちらも正しいけど、文脈での使い分けができるかどうかが大事なんだね。
A先生:発音の誤りもAIで分析できるんですか?
校長:できるよ。音声認識AIを使えば、発音やイントネーション、語順の自己修正まで自動で検出できるんだ。生徒が"話しながら考えている"プロセスがちゃんと見えるようになってきているよ。
A先生:なるほど...誤答が、単なるミスではなく、学びのプロセスそのものなんですね。
校長:そうなんだ。だから生徒が自分の誤答を語れることを大事にしているんだよ。自己誤答ノートやリフレクションシートを使うと、自分の間違いを言葉で説明できるようになる。これは英語力だけじゃなくて、学びを自己調整する力を育てる営みなんだ。
A先生:それが自己調整学習につながるんですね。
校長:その通りだね。生徒の誤り一つひとつに、発達の物語が宿っているんだよ。その誤答をどう読み取って、どう活かすかというところが教師の腕の見せどころじゃないかな。
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