校長ブログ
医工連携
2025.12.19
大学進学研究
12月19日
2024年10月、東京工業大学と東京医科歯科大学が統合し、「東京科学大学」が誕生してから1年が経ちました。理工学と医歯学の融合を掲げるこの新大学は、「医工連携」という新しい知のかたちを現実のものにしようと歩みを進めています。両者の強みを活かした研究や教育の試みは、着実に芽を出し始めているようです。
理事長の大竹尚登氏は、統合1年を87.5点と評価しています。完璧ではないものの、確かな成果が見え始めたという意味でしょう。特に研究面では、ビジョナリー・イニシアティブ(VI)と呼ばれる全学的な研究体制を導入し、分野横断的な協働を進めている点が注目されています。例えば、医療現場と工学研究者が協力し、軽量のARグラスを開発したというエピソードは象徴的です。これまで重く扱いづらかった手術用デバイスが、理工の知恵と医療現場の課題意識の出会いによって改良されました。まさに現場と研究の接続がイノベーションの鍵であることを示しています。
一方で、組織文化の融合という課題は依然として重いようです。高い独自性を持ってきた二つの大学が一体となるには、理念の共有と相互理解が欠かせません。執行部が全国を巡り、教職員と意見交換を行う「タウンホールミーティング」を重ねているということですが、これは統合を単なる制度改革ではなく、文化の統合として捉えている証拠だと思います。
教育面では、理工系と医歯系の学生がともに学ぶ授業が始まり、議論の多様性が生まれています。科学技術の視点に、患者の立場や生命倫理の視点が加わることで、学びの深さは確実に増しているようです。分野の異なる学生が交わることで、自らの専門を相対化することができます。これはまさに、これからの時代に求められる「知のあり方」を象徴していると感じます。
もっとも、統合は理想だけでは進みません。事務体制の調整や教員の負担増など、現実的な課題も山積しています。経営面では「国際卓越研究大学」への認定が鍵を握っています。選ばれれば長期的な研究資金が確保されますが、海外の一流大学と肩を並べるためには、単なる予算拡充にとどまらず、組織改革と人材育成の両輪が不可欠です。
この東京科学大学の歩みに統合の本質とは何かという問いを感じます。統合とは、異なる文化や専門が互いを否定することではなく、共通の目的に向けて新たな価値を創造することです。教育も学校経営も同じだと思います。多様な知が出会い、摩擦を生みながらも、その先にしか新しい可能性は生まれません。
統合から1年。東京科学大学が真に「融合の大学」として成熟していくかどうかは、今後の数年間にかかっています。その挑戦のプロセスこそ、日本の高等教育の未来を照らす鏡になると感じています。