校長ブログ

英語教育を考える㊱ー英語評論文と探究の力

2025.12.23 教科研究

12月23日

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生徒:今日の英語の授業で評論文を読んだんですけど、そこから探究の問いを立てましょうと言われて、うまくできませんでした。

校長:どんな評論文だったの?

生徒:"The Impact of AI on Humanity"というタイトルで、AIが人間の知性をどう変えるかについて書いてありました。読めたつもりなんですが、問いとなると...

校長:なるほど。よい経験だね。実は、問いを立てるというのは、単に理解を確認することではなく、思考を展開させる行為なんだ。

生徒:思考を展開させる?

校長:うん。評論文を読むとき、私たちは筆者の主張を理解しようとする。でも、そこからなぜそう考えるのかと自分に問い返すと、学びが再現から創造に変わる。これが探究型学習の第一歩なんだよ。

生徒:つまり、読むことが探究の始まりなんですね?

校長:そう。評論文は他者の思考が詰まったテキスト。そこに自分の思考をぶつけると、新しい問いが生まれる。英語で書かれているということは、異なる文化や価値観のレンズを通して考える機会でもあるんだ。

生徒:今回の評論では、AIは人間の創造性を拡張すると書いてあって、私は"本当にそうなのかな?"と思いました。

校長:そこだよ。その"本当に?"という感覚が、探究の出発点になる。批判的思考(Critical Thinking)とは、反論することではなく、根拠をもって吟味する力なんだ。

生徒:例えば、"AIの創造性と人間の創造性は同じなのか?"とか?

校長:そう。その問いの背後には、創造性とは何か?という哲学的な問題がある。評論文を読むときは、こうして概念の定義や前提に気づくことが大切なんだ。

生徒:でも、問いって広がりすぎて、どこまで考えればいいのか分からなくなります。

校長:それは思考が深まっている証拠。探究学習では、最初から正しい問いを立てる必要はない。大切なのは、問いを洗練させていくプロセスなんだ。

生徒:問いを洗練させる...?

校長:そう。例えば、"AIは創造的か?"という広い問いを、"AIは芸術表現において人間の感性を再現できるか?"のように、焦点化していく。これはメタ認知(Metacognition)の力―つまり、自分の思考を意識化して調整する力と関係しているよ。

生徒:なるほど...問いを立てるには、自分の考え方を"見る"ことが必要なんですね。

校長:そう。"何を考えるか"だけでなく、"どう考えるか"を考える。英語の評論文読解は、その練習に最適なんだ。なぜなら、英語の言説構造は、主張・根拠・反論の関係が明確に示されているからね。

生徒:確かに、HoweverやIn contrastとか、論理の展開が分かりやすいです。

校長:その構造を読み解くことで、"思考の型"を学ぶことができる。そして、その型を使って自分の問いを構築する。これが、評論文を"読む"ことから"探究する"へと発展するプロセスなんだ。

生徒:そう考えると、英語の読解って、単なる理解問題じゃないですね。

校長:そう。評論文読解は、他者の思考を借りて、自分の思考を育てる学びなんだ。OECDの『Learning Compass 2030』では、"Transformative Competencies"、つまり、変化を生み出す力が重視されている。問いを立てることは、その第一歩なんだよ。

生徒:読むことが、問いを生むって、そういうことなんですね。

校長:そう。君が感じた違和感や疑問は、知の芽だ。それを大切に育てていきたいものだね。

生徒:次の授業では、"AIと創造性"をテーマに、自分の問いを立ててみます。

校長:その問いが、君の学びの羅針盤になるはずだよ。