校長ブログ
英語教育を考える㊲ー学びの情意的側面
2025.12.29
教科研究
12月29日
今回は教育評論家F氏との対談からです。
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F:SLA(第二言語習得研究)の本を読んでいたら、「動機づけ」や「L2理想自己」という言葉がよく出てきます。授業づくりでも関係があるのでしょうか?
校長:SLAでは以前から「情意フィルター」や「モチベーション」という概念が重視されてきました。つまり、どんなに教材や指導法が優れていても、学ぶ本人の心の状態、つまり、不安や楽しさ、将来への希望が学習成果に大きく影響するという見方ですね。最近では、さらに一歩進んでL2 Motivational Self System(第二言語における動機づけ自己システム)という理論が注目されています。これは、学習者が英語を使う自分の将来像をどれだけリアルに思い描けるか、そのイメージが学びを動かすという考え方です。
F:なるほど...確かに、英語ができるようになりたいではなく、英語で誰と、どんなことをするかという具体的な未来像を持つ生徒は、学び方が違うように感じます。
校長:EFL環境、つまり日本のように英語を使う機会が日常的に少ない国では、この将来イメージが特に大切になります。自分の中に英語を使う未来の自分を持っている生徒は、環境に左右されずに自律的に学び続ける傾向があります。ですから、学校としては学習者の将来像を促す仕組みや選択できる学びの機会をカリキュラムに組み込む必要があるのです。例えば、授業の冒頭で、この英語をどんな場面で使いたいかを生徒同士で語り合う時間を設けるだけでも、意識が変わります。
F:そうした活動を通して、自分で学びを選び取る感覚が育つのですね。
校長:ええ。学びの自律性(learner autonomy)を高めることは、英語だけでなく生涯学び続ける力の基盤になります。自分で選び、振り返り、調整できる学びの設計とも言えます。例えば、生徒が自分のプロジェクトテーマを選ぶ探究型英語授業や、学期末に自分の英語成長ストーリーを振り返るリフレクション活動などです。こうした仕掛けが、学習者の内側に"学びの軸"を育てていくのです。
F:教育実習の学生たちにも、この考え方を伝えてほしいですね。授業づくりのテクニックよりも、まず、学習者の心を動かすとはどういうことかを考えさせたいです。
校長:「教師が動機づけをどう高めるか」「学習者の自律をどう支えるか」は極めて大切なテーマ。教師が知識の伝達者から学びのファシリテーターへと転換していく時代ですからね。実習には、授業を通して、生徒が自分の未来を描けるようにすることの意味を、ぜひ体験的に学んでほしいと思います。
F:つまり、英語教育の目的は、英語を学ばせることではなく、英語を通して自分を育てること、ということですね。
校長:その通り。英語というツールを通して、自分の可能性を描き、自分で学びを設計する力を育てる。それこそが、これからのグローバル教育の核心でしょう。だからこそ、教師もどんな学びを届けたいかというビジョンを持ち続けることが大切なのです。学びの情意的側面となる動機づけ、楽しさ、自律性は、英語教育を人間教育へと広げる扉と言えます。
F:英語の授業がもっと豊かになるイメージが湧きました。ありがとうございました。
校長:こちらこそ。英語教育の本質は、言語を超えて人を動かす学びをどうつくるか。そのデザインを探り続けていきましょう。
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