校長ブログ

ビジョナリー(先見性)とリーディング・バイ・イグザンプル(率先垂範)

2026.01.24 トレンド情報

1月24

 2025年のノーベル生理学・医学賞に輝いた大阪大学・坂口志文特任教授の研究室の歩みには敬意を表します。世界的な発見となった「制御性T細胞」の存在を示した研究は、わずか5名のラボから生まれたそうです。人員も予算も潤沢とは言えない環境で、なぜこれほどの成果が生まれたのか。その背景には、あらゆる分野に通ずる普遍的な原理がありました。

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 第一に挙げたいのは、坂口教授が示した揺るぎないビジョン。坂口氏が語る研究構想は、若手研究者に未来を感じさせ、彼らを惹きつけました。研究者たちが語る「ワクワクするテーマ」という言葉には、ビジョンが人を動かす力の大きさが凝縮されています。方向性が明確である組織は、自然と議論が活性化し、挑戦が日常になります。

 第二に、坂口教授が徹底していたのが率先垂範の姿勢。マウスの世話から実験作業まで、自ら手を動かすリーダーの姿は、メンバーのモチベーションや信頼に直結します。現場から離れた言葉だけの指示では生まれない空気感が、坂口研究室では当たり前の日常として積み重ねられていたのです。この現場に立つリーダーシップは、教育の世界でも非常に重要です。数字や資料だけではわからない"温度"を、リーダー自身が感じ取ることによって、判断の質が大きく変わります。

 第三に注目したいのは、イエスマンを生まない文化。リーダーに迎合する雰囲気が強い組織では、都合の悪い情報が上がらなくなり、結果として判断が歪みます。坂口研究室のメンバーは、教授が現場に立ち続けていたことで、嘘や忖度の余地がなかったと語ります。誠実な情報共有が当たり前であること─これはあらゆる組織で成果を支える基盤と言えるでしょう。

 さらに興味深いのは、坂口教授と妻・教子氏の異なるリーダーシップの共存です。柔らかい支援と合理的な指導が同時に存在し、それが組織の厚みを生みました。一人のリーダーがすべての役を担うのではなく、スタイルの違う複数のリーダーによる分業が、チーム全体の安定感につながったのです。

 最後に、坂口研究室が挑んだテーマは、競争相手が少ない「ブルーオーシャン」だったとも言われています。他者の参入が少ない領域で、本質的な価値を追求し続けた結果が、誰も到達していなかった成果につながったのでしょう。大きな成果を生み出す力は、人数や予算よりもむしろ、ビジョン、現場主義、誠実さ、多様なリーダーシップといった組織の"質"に宿るのです。どのような規模の組織であれ、この点は変わりません。そう改めて実感させられました。