校長ブログ

幸福を教えるということ

2026.01.27 教科研究

1月27日

 幸福とは何でしょうか?人はどのようにすれば幸せになれるのでしょうか?教育の現場に立っていると、この問いは哲学書の中だけにあるものではなく、日々、生徒たちと向き合う中で繰り返し突きつけられる、極めて現実的な課題であると感じます。

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 近年の脳科学の研究は、幸福感が単なる気分や環境条件の産物ではなく、脳の働きと深く関係していることを明らかにしつつあります。とりわけ注目されているのが「楔前部(けつぜんぶ)」という脳の部位です。この部分は、自分を過度に低く評価したり、将来に対して過剰な不安を抱いたりする際に活発に働くことが知られています。研究によれば、幸福感が高い人ほど、この楔前部の活動が穏やかであることが示されています。

 重要なのは、脳の働きがその人の運命を固定してしまうわけではない、という点です。脳は経験によって変化します。家族や友人、教師や仲間との関わりの中で、「支えられている」「役に立っている」「信頼されている」と感じる経験は、感情を司る扁桃体と楔前部の健全な連携を育てると考えられています。つまり、幸福感は教育や環境によって育てることが可能なのです。

 日本は世界的に見ても安全で、平均寿命も長く、経済的にも一定の豊かさを保っています。しかし、主観的幸福度の国際調査では下位に位置することが少なくありません。この事実は、私たちが生徒に何を教えてきたのかを、静かに問い返しているように思います。成績や成果、競争において「勝つこと」ばかりを重視し、「信頼すること」「助けを求めること」「他者とつながること」を十分に学ぶ機会を用意してきたでしょうか?

 幸福は、テストで測れるものではありません。しかし、対話を重ね、自分自身を振り返り、他者と協働する学びの中で、人は確実に「幸せになりやすい思考の枠組み」を身につけていきます。脳科学が示す知見と、教育現場での実践を丁寧に結びつけながら、学校を「知識を教える場」から「幸福を育てる場」へと進化させていくこと。それこそが、これからの教育に求められる役割であると考えています。