校長ブログ
英語教育を考える54ー科学研究と英語
2026.04.16
英語教育
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4月16日
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高2生:英語はやはりできた方がよいのでしょうか?将来、研究に関わりたいと考えているのですが、英語が苦手でして、不安があります。
校長:そうだね。不安になるのは自然なことだよ。でもね、現実として英語は科学の世界ではほぼ「共通語」なんだ。
高2生:やはりそうなのですね。
校長:2025年にクイーンズランド大学の研究チームが発表した調査があるよ。論文は『プロス・バイオロジー』に掲載されたんだ。英語が母語ではない研究者は、英語論文が却下される頻度が2倍以上高く、執筆にかかる時間も最大で5割長いという結果だったそうだよ。
高2生:内容ではなく、英語力によって評価が左右される可能性があるということでしょうか?
校長:そうだね。もちろん研究の質が第一だよ。でも同じ質でも、言語の壁がハンディになることはある。別の研究では、非英語圏の若手研究者は、英語論文が却下される割合が約2.5倍高いというデータもあるんだ。
高2生:そんなに差があるのですね。
校長:受理された場合でも、英語表現の修正を求められる頻度が12倍以上だったという報告もあるよ。さらに、英語論文の読み書きには、英語圏の研究者より5割から9割ほど余分に時間がかかるという調査もある。
高2生:時間も労力も、かなり違うのですね。
校長:そうだね。科学分野の出版物の約98%は英語で書かれているとも言われている。生物学の700以上の学術誌を調べたところ、英語以外で論文を発表できるのはわずか6%だったという報告もあるよ。
高2生:それでは、英語ができないと研究者として活躍するのは難しいのでしょうか?
校長:難しいというより、不利になりやすい、だね。ただね、ここで大事なのは絶望することじゃないよ。構造を理解することなんだ。
高2生:構造、ですか。
校長:例えば、バングラデシュやネパールなど非英語圏の女性研究者は、研究者になって約20年後の論文数が、英国の男性研究者に比べて約7割少なかったというデータがある。言語だけでなく、育児や研究資金の問題も関係している。でも英語の壁が高いことは確かだね。
高2生:公平性という観点で、大きな課題ですね。
校長:その通りだよ。言葉の壁は個人の問題ではなく、科学全体の問題なんだ。もし非英語圏の研究者が十分に活躍できれば、人材が多様になり、新しい発見や気候変動などの解決策の提案につながる可能性がある。
高2生:言語の壁が、科学の発展そのものを妨げるかもしれないのですね。
校長:そうだね。だからこそ、どう向き合うかが大事なんだよ。一つの方法はAIの活用だ。スタンフォード大学の研究者は、AIによって英語論文を書く手間を大幅に減らせたと話している。
高2生:AIは研究者の助けになるのですね。
校長:英国の生態学会では、AIを使って英語論文を無償で校閲するサービスも始まっている。技術は確実に壁を低くしているよ。
高2生:それなら、少し希望が持てます。
校長:ただしね、AIは補助輪だよ。最終的には自分でバランスを取れる力が必要だ。だから英語そのものを学ぶ努力も大切なんだ。
高2生:やはり、自分の力を高めることは欠かせないのですね。
校長:そうだね。実際、東京大学大学院工学系研究科では2025年度から一部授業を英語で実施している。英語で議論し、英語で論文を書く力を養うためだよ。
高2生:本校で英語による授業が増えているのも、そのような背景があるのですね。
校長:その通りだよ。英語は目的ではなく、知の世界にアクセスするためのパスポートのようなものなんだ。
高2生:パスポート、ですか。
校長:そう。第二次世界大戦前はドイツ語やフランス語も科学で使われていた。今は英語が共通語になって効率は上がった。でも、その効率の裏で、誰かが余分な努力をしていることも忘れてはいけないね。
高2生:効率と公平のバランスを考える必要があるのですね。
校長:その通りだね。だから君たちに二つの力を持ってほしい。一つは英語を使いこなす力。もう一つは、言語の壁に苦しむ人の立場を想像できる力だよ。
高2生:英語を学ぶ意味が、少し変わりました。
校長:それはうれしいね。英語はゴールじゃない。ツールだよ。そして、そのツールをどう使うかは人の姿勢にかかっている。
高2生:はい。苦手でも逃げずに向き合います。
校長:壁は高いかもしれないけれど、壁の向こうには、まだ見ぬ景色が広がっていると思うよ。
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