校長ブログ

AI共創の時代に、日本の教育は何をなすべきか?

2026.04.24 EdTech教育

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4月24日

 日本政府がASEANと連携し、各国の現地語に対応した大規模言語モデル(LLM)の共同開発に乗り出すそうです。とりわけ、カンボジアの公用語クメール語によるAI基盤整備を支援するという動きは、単なる技術協力ではありません。これは言語と価値観を尊重する国際協働の宣言だと考えています。

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 AIはもはや便利な道具ではありません。社会の意思決定、教育、経済活動、そして文化形成にまで影響を及ぼす基盤インフラです。その基盤を、どの言語で、どの価値観で、誰が設計するのか。この問いは、教育の問いと本質的に重なっています。

 ASEAN諸国は、米中のはざまで難しい舵取りを迫られています。AI分野では米国の巨大企業が先行し、中国も国家戦略として技術力を高めています。その中で、自国の言語や文化が十分に反映されないAIを使い続けることは、静かに「認識の主権」を手放すことにつながりかねません。

 だからこそ、日本が掲げる「安全、安心で信頼できるAI」の共同開発は重要です。法整備やガバナンス、人材育成、インフラ整備、包摂性の確保などを包括的に進める姿勢は、単なる市場開拓を超えた価値の共創を志向しているものです。

 教育に携わる立場から、特に人材育成に注目しています。タイ・バンコクのAJCCBCを拠点にAI人材を育成し、オンラインも活用して各国のエキスパートを養成する構想は、まさにラーニング・コミュニティの国際版だと言えます。知識を一方向的に与えるのではなく、共に学び、共に設計する。その姿勢が重要です。

 東京大学の松尾豊教授の研究室との連携も象徴的です。ベトナムやマレーシアでの講義実績は、知の往還がすでに始まっていることを示しています。大切なのは、日本が常に「教える側」に固定されないことです。ASEANの若者たちの問いや発想から、日本もまた学ぶ。その双方向性こそが、真の共創だと考えます。さらに、農業DXや災害軽減など、社会課題に直結する分野特化型AIの開発支援は、技術を生活と結びつける実践です。AIは抽象的なアルゴリズムではなく、地域の課題を解決する具体的な力として存在すべきです。

 中等教育の現場においても、AIを「使う」だけでなく、「問い直す」力を育てる必要があります。どのデータが学習され、どの視点が強調され、どの価値が前提とされているのか。そうしたメタ認知こそ、これからのグローバル人材に不可欠です。

 AIを通じた価値観の浸透は、経済安全保障の問題にもなり得ます。だからこそ、信頼で連帯する道を選ぶことこそが重要です。各国の言語と文化を尊重し、その上で技術と制度を共に設計する。そこに日本の役割があります。

 教育もまた同じです。画一的なモデルを輸出するのではなく、現地の文脈を理解し、ともにカリキュラムを創る。そのプロセス自体が、民主的で包摂的な社会の土台を育てます。AI共創の時代は、技術競争の時代であると同時に、信頼構築の時代でもあります。日本とASEANが築く協働の枠組みが、外交成果にとどまらず、次世代の学びと社会のあり方を照らすモデルとなることを期待しています。未来は、誰かが与えるものではありません。共に設計するものです。その覚悟が、今、私たちに問われています。