校長ブログ
知はどこで生まれるか
2026.04.22
カリキュラム・マネジメント
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4月22日
清水洋氏(早稲田大学教授)は、近年の企業経営を読み解く上で、三つの重要な視点を提示されています。(日経2026.1.7)第一に、情報の非対称性こそがビジネス機会の源泉であること。第二に、研究開発と経営戦略の関係を再構築する必要があること。第三に、日本は高度研究人材の活用において米国に劣後しているという現実です。これらは企業経営に限らず、学校経営や教育改革を考える上でも、極めて示唆的な指摘だと感じています。
情報の非対称性とは、ある情報を知っている人と知らない人が存在する状態を指します。この「ずれ」があるからこそ、ビジネス機会は生まれるのです。しかし、現代は情報の拡散速度が極めて速く、外部環境の変化を察知するだけでは、非対称性はすぐに解消されてしまいます。つまり、外から与えられる変化を追いかけるだけでは、持続的な価値は生まれにくい時代になっているのです。
そこで重要になるのが、研究開発、すなわちR&Dの再定義です。清水氏が強調するのは、R&Dを単なる新製品や新技術の開発部門として捉えるのではなく、「自ら情報の非対称性を生み出す営み」として位置づけ直す必要性です。自組織の内部で新しい知を生み出すからこそ、他にはない視点で戦略を構想することが可能になります。
これは教育の世界にもそのまま当てはまります。外部の成功事例や政策動向を取り入れることは重要ですが、それだけでは十分ではありません。自校の実践を研究し、言語化し、次の改善につなげていく。この循環そのものが、学校におけるR&Dであり、そこから生まれる知が学校経営やカリキュラムの方略を決定づけます。本来、方略が先にあり研究が従うのではなく、研究と方略は相互に影響し合う関係であるべきなのです。
三つ目の指摘である、日本の高度研究人材活用の遅れは、極めて重い課題です。米国と比べ、日本では博士号を持つ人材が十分に活かされていない現状があります。これは単なる人数の問題ではありません。知が生まれつつある段階、つまり構想や議論のプロセスにどれだけ関与できているかという問題です。完成された論文や成果だけを追っていては、情報の非対称性はすでに失われています。
知は、完成した成果物の中ではなく、生成の現場で生まれます。だからこそ、研究開発と方略を結び直し、高度研究人材を組織の中核に位置づけることが不可欠です。清水氏の指摘は、これからの企業経営だけでなく、学校や教育行政が進むべき方向をも、静かに、しかし鋭く示しているように思います。