校長ブログ

英語教育を考える57-文法は教えるものなのか?

2026.05.09 英語教育

 この記事は音声でも、お聴きいただけます。

5月9日

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若手教員:最近の英語教育研究を読んでいると、文法指導の考え方がかなり変わっているように感じます。昔のように文法を説明して問題演習をする授業は、もう主流ではないのでしょうか?

校長:そうだね。完全に無くなったわけではないけれど、今の英語教育では、文法の位置づけはかなり変わってきているんだよ。

若手教員:やはりコミュニケーション重視ということでしょうか?

校長:その通りだね。今の考え方では、文法は覚える知識ではなくて、コミュニケーション・ツールなんだ。

校長:例えば、仮定法を教えるとき、かつてはまず仮定法のルールを説明し、例文を示し、問題集を解くという形式だったんだ。でも今ならIf you won the lottery, what would you do?みたいな問いを投げかけ、ディスカッションをさせているよ。

若手教員:なるほど。実際のコミュニケーションの中で仮定法を使うんですね。

校長:そう。文法は"使ってこそ意味がある"という発想だね。英語教育ではこれをコミュニカティブ文法指導と言うんだ。

若手教員:最近よく聞くタスクベースの授業も同じ流れでしょうか?

校長:よいところに気づいたね。タスクベースの授業は、もっと大胆なんだ。一般的な授業は説明 → 練習 → 使用だよね。でもタスクベースなら使用 → 気づき → 文法整理になる。

若手教員:最初に使わせるんですか?

校長:そうだね。例えば"旅行プランを作る"という課題を出す。生徒は英語で相談しながら計画を作る。そのあとで教師が「ここでは future expressions を使うとよいね」のような指導をするんだ。つまり、使った後で文法を整理するんだね。

若手教員:最近、帰納的文法指導という言葉も聞きました。

校長:それも重要な流れだね。教師がルールを説明するのではなく、生徒に発見させる取り組みだね。例えば、I have lived here for 10 years.とShe has studied English since 2020.という文を見せて、for と since の違いは何だろう?と問いかけるとしよう。

若手教員:生徒がルールを考えるんですね。

校長:そうだよ。言語学習は"パターン発見"だという認知科学の考え方が背景にあるんだ。

若手教員:でも授業で文法を全く説明しないと、誤りが増えませんか?

校長:よい質問だね。そこで出てくるのがFocus on Formだよ。例えば生徒が"He go to school yesterday."と言ったとしよう。そのとき教師はgoではなくて、went と教えるね。説明はこれだけ。1分もかからない。

若手教員:ミニ修正ですね?

校長:そう。コミュニケーションを止めずに、必要な瞬間だけ文法に焦点を当てる。これが今の英語教育の重要な技術なんだ。

若手教員:IBの授業を見学したとき、先生がほとんど文法を説明していないのに驚きました。

校長:それは"noticing"という考え方だね。例えば、Scientists have discovered new species.とScientists discovered new species last year.を見せて、"What is the difference?"と聞くんだ。

若手教員:なるほど。生徒が現在完了と過去形の違いに気づくわけですね。

校長:そう。"説明する"のではなく、"気づかせる"んだよ。

若手教員:文法練習問題はあまり使わないんでしょうか?

校長:IB校ではかなり少ないね。代わりに書く活動を重視する。例えばこんな課題だ。Write about your city in 2050.

若手教員:未来の街を書くんですね。

校長:そう。その中で自然にこういう文が出てくる。Many buildings will be powered by solar energy.

校長:未来表現や受動態が、意味のある文脈の中で使われるんだ。

若手教員:つまり授業の構造そのものが変わるんですね。

校長:その通りだね。今の英語授業はだいたいテキストを読む→ディスカッション→文法に気づく→ミニ説明→タスク→ライティングという順序が多いね。

若手教員:日本の授業とはかなり違いますね。

校長:そうだね。でも私は、日本の文法教育が間違っているとは思っていないんだ。

若手教員:そうなんですか?

校長:日本の授業は"正確さ"を重視してきた。それは大きな強みだよ。ただし今必要なのは、その文法知識をコミュニケーションの中でどう使うかなんだ。

若手教員:文法を教えるというより、文法を"使わせる"授業ですね。

校長:そう。文法は教えるものではなく、使うことで理解されるものなんだよ。