校長ブログ
英語教育を考える58ー定着率を高める
2026.05.16
英語教育
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5月16日
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校長:今日は授業の話をしようか。授業で学んだことが、次の日にはもう曖昧になっていると感じたことはあるかい?
生徒:はい、正直に申し上げるとあります。授業では理解できた気がするのですが、時間が経つと覚えていないことが多いです。
校長:それはとても自然なことだね。人間の記憶には「忘却曲線」と呼ばれる特徴があるんだ。ドイツの心理学者であるエビングハウスが示した研究だけれど、人は学んだ内容の多くを、復習しないと短時間で忘れてしまうんだよ。
生徒:そうなのですね。では、英語の授業内容をしっかり覚えるためには、復習を増やせばよいのでしょうか?
校長:もちろん復習は重要だね。ただし、ただ回数を増やせばよいわけではないんだ。教育心理学では「想起練習」という方法が非常に効果的だと分かっている。英語で言うと retrieval practice だね。これは、ノートを見返すだけではなく、自分の頭から思い出す練習をするということだよ。
生徒:思い出す練習でしょうか?
校長:そうだね。例えば、授業で学んだ単語をノートで眺めるだけではなく、「今日の授業で出てきた単語を5つ思い出してみよう」と自分に問いかけるんだ。思い出そうとする行為そのものが、記憶を強くするんだよ。
生徒:それは意外です。私はいつもノートを見直すことばかりしていました。
校長:多くの生徒がそうなんだ。けれども、認知心理学の研究では、読むことよりも思い出すことの方が記憶の定着に効果があると示されている。英語学習でも同じだね。
生徒:なるほど。では授業後に思い出す時間を作ればよいのでしょうか?
校長:その通りだね。例えば、授業が終わった後に3分だけでもいい。「今日の授業のポイントは何だったか」「新しい表現は何だったか」を思い出してみる。これだけで記憶の定着はかなり変わるんだよ。
生徒:3分でよろしいのですか?
校長:短くていいんだ。むしろ、短い時間でも頻繁に思い出すことが大切だね。教育学ではこれを「分散学習」と呼ぶ。英語では spaced learning と言うね。まとめて長時間勉強するより、短い復習を何回も行う方が効果が高いんだ。
生徒:確かに、テスト前にまとめて勉強することが多いです。
校長:それも一つの学び方だけれど、長期的な力にはなりにくいんだ。英語は知識科目ではなく、技能科目だからね。毎日少しずつ使うことが大切なんだよ。
生徒:使う、というのは話すことですか。
校長:話すことも大事だね。ただ、もう少し広く考えるといい。例えば、その日に習った英文を使って自分のことを一文書いてみる。あるいは、友達に「今日この表現を習いました」と英語で説明してみる。そうやって「使う」ことで知識が自分のものになるんだ。
生徒:それは少し難しそうですが、面白そうです。
校長:最初は簡単でいいんだよ。例えば "I'm looking forward to ~" を習ったなら、"I'm looking forward to the school festival." と書いてみる。授業の表現を自分の生活に結びつけるんだ。
生徒:確かに、それなら覚えやすい気がします。
校長:そうだね。学習科学では、知識を自分の文脈に結びつけることを「精緻化」と呼ぶ。英語でも同じで、教科書の例文だけではなく、自分の経験とつなげると記憶が強くなるんだよ。
生徒:英語学習には、思っていたより科学的な方法があるのですね。
校長:そうなんだ。学校の授業づくりでも、この学習科学の知見をとても大切にしている。授業とは、単に知識を説明する場ではなく、生徒の記憶と理解をデザインする場だからね。
生徒:記憶をデザインする、ですか。
校長:いい言葉に気づいたね。例えば授業の最後に「今日のキーワードを三つ書いてみよう」と先生が言うことがあるだろう。あれも実は想起練習なんだ。学習科学の理論に基づいた授業設計なんだよ。
生徒:そう聞くと、授業の見方が変わりそうです。
校長:そうだね。授業は受け身で聞くものではなく、自分の記憶を作る場だと考えるといい。英語の力は、授業中と授業後の小さな行動の積み重ねで大きく伸びていくんだよ。
生徒:本日のお話を伺って、授業後の3分復習と、思い出す練習を実践してみようと思います。
校長:それはいいね。英語学習は特別な才能ではなく、良い学び方を続けることで伸びていくものなんだ。今日の授業を思い出す3分。その小さな習慣が、半年後の英語力を大きく変えるはずだよ。
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