校長ブログ
子育て時間の増加
2026.05.04
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5月4日
近年、育児にかける時間が着実に増え続けています。家庭の子どもの数は減少しているにもかかわらず、育児に費やす時間は増えているという点が重要です。総務省の『社会生活基本調査』によれば、末子が6歳未満の夫婦における1日の育児時間は、1996年から2021年にかけて、女性で約1.4倍、男性では約3.6倍に増加しています。男性の育児参加が進んだこと自体は前向きに評価されるべきですが、その一方で、女性の負担も減ることなく、むしろ増えている現実は看過できません。
この背景には、一人の子どもを、できる限り手厚く育てるという、いわゆる「良き親プレッシャー」の存在があります。これは日本特有の現象ではありません。『エコノミスト』は、現代の親は50年前に比べて、子どもに費やす時間が約2倍になったと報じています。カナダ、ドイツ、北欧諸国、アメリカなどでも同様の傾向が確認されており、育児の時間集約化は先進国共通の課題だと言えるでしょう。
日本の場合、そこに長時間労働という構造的問題が重なります。仕事の時間が長いまま育児時間が増えれば、削られるのは余暇です。内閣府の国際比較調査において、自由な時間がないと感じる親の割合が日本で突出して高いのは、決して偶然ではありません。
現場の声は切実です。共働きで夫婦が育児を分担していても、「平日は仕事、休日は公園のはしごでヘトヘト」「自分の親は子どもだけで外で遊ばせていたけれど今それはできない」といった声が聞かれます。SNSには膨大な子育て情報があふれ、知れば知るほど不安が増していきます。その結果、「これ以上、子どもが増えたら精神的に持たない」と、第二子を断念する家庭も少なくありません。
OECDは、世界的な出生率低下の要因として、「良い親であるべきだという要求が強まっている」ことを明確に指摘しています。過度な競争、親の孤立、ソーシャルメディアの影響が絡み合い、育児はいつの間にか「個人が抱え込むべき重い責任」へと変質してしまいました。
ここで立ち止まって考える必要があります。子どもと過ごす時間そのものは、かけがえのない価値を持っています。しかし、過度に管理され、過度な期待を背負わされた育児は、親にとっても子どもにとっても持続可能とは言えません。研究者が指摘するように、「やりすぎの育児」は、子どもの将来にとっても負担になり得ます。
教育もまた、この問題と無縁ではありません。家庭がすべてを背負い、学校がすべてを背負う構造は、すでに限界に近づいています。今求められているのは、「完璧な親」や「完璧な教育」を競うことではなく、社会全体で子どもを育てるという発想への転換です。
持続可能な育児とは、親が息切れせず、子どもが過剰な期待に押しつぶされない状態をつくることです。そのための環境づくりを、教育と社会が協働して進めていく段階に入っているのだと思います。