校長ブログ
ジェンダー担い手
2026.05.08
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5月8日
ジェンダー問題をめぐる議論は、日本社会においてなお多くの課題を抱えています。政治、経済、教育、そして安全保障の領域に至るまで、構造的な不均衡は解消途上にあります。そうしたなか、若手研究者の育成を支援し、海外の研究機関や研究者との交流を深めようとする動きが広がっています。

一橋大学大学院ジュニアフェローの児玉谷レミさんは、2025年10月から約1カ月間、ジョージタウン大学の女性・平和・安全保障(WPS)研究所で研究を行いました。滞在中には国際連合本部も訪問し、「情報の量と質が段違いだった」と語っています。国内では得られなかった視点からのフィードバックが、研究へのモチベーションを大きく高めたといいます。
彼女が参加したのは、外務省が開始した「ジェンダー次世代ネットワーク・プログラム」。若手研究者を海外に派遣し、国際的なネットワークを構築することで、日本国内の研究と政策議論を活性化させることを目的としています。軍事・戦争のジェンダー理論を専門とする児玉谷さんにとって、先行研究が蓄積されている米国での学びは必然だったそうです。
日本はジェンダー・ギャップ指数も主要国のなかで低位にあり、だからこそ、日本で育ったからこそ見える視点を国際社会に発信する意義は大きいのだと思います。国際的な知見を輸入するだけでなく、日本発の理論的・実証的研究を発信する双方向性こそが重要です。
また、国際基督教大学(ICU)の井上夏実さんは、ノルウェーのオスロ国際平和研究所(PRIO)で研究を行いました。女性やLGBTQへの攻撃など、特定の主張を行う人々の動向を分析するなかで、「表面からは見えにくいことを丁寧に探り分析する姿勢」を学んだといいます。北欧は人権先進地域という印象がありますが、1980年代と比べると議論は停滞し、日本と共通する課題もあることに気づいたといいます。国際比較は、他国を理想化するためではなく、自国を相対化するためにあります。
国内でも、海外研究者を招聘する動きが進んでいます。東北大学は2025年10月、ジェンダー研究で世界的に著名な研究者を客員教授として招きました。その一人であるマリアンヌ・ベルトラン教授(シカゴ大学)は、無意識のバイアスが進学選択に与える影響について学生と議論しました。データに基づく分析は、ジェンダー問題を感情論から解き放ち、政策の裏付けとなる科学的根拠を提示します。
しかし、学術界そのもののジェンダー平等は依然として遅れています。女性研究者の割合は主要国と比べても低く、とりわけ理系分野での格差は顕著です。研究の担い手が多様でなければ、多様な問いも生まれません。学術における平等は、ジェンダー研究推進の前提条件です。
一方で前向きな兆しもあります。国立大学におけるジェンダー関連科目はこの20年で大幅に増加しています。お茶の水女子大学は日本初のジェンダー研究博士課程を設置し、国際的知見の導入と国内人材育成を両輪で進めています。卒業生が大学や官公庁で政策形成に携わっていることは、研究と社会実装が結びつき始めている証左でしょう。
国際交流は刺激と知見をもたらします。しかし、それだけでは持続的な変革にはなりません。国内で人材を育て、研究を蓄積し、政策提言へとつなげる仕組みづくりが不可欠です。国際と国内の両輪がそろってこそ、次世代育成は実行力を持ちます。
若い研究者が志を抱き、世界と対話し、そして日本社会に新たな視座をもたらす循環をどう設計するかが教育現場への問い。ジェンダー平等の実現は、理念ではなく、育成と実践の積み重ねの先にあるのだと、改めて感じています。