校長ブログ

世界は今-インド

2026.06.09 グローバル教育

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6月9日

 人間の「知」の価値が、いま根底から揺らいでいます。生成AIの進化は、知識を蓄積することの意味そのものを急速に書き換えました。同時に、世界では分断と対立が深まり、誰もがその歯止めを見い出せずにいます。これからの時代に、人間に本当に求められる力とは何か?この問いから目をそらして、教育を語ることはできません。

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 そのヒントは、いまインドで起きている現実の中にあります。名門 インド工科大学(IIT)を目指し、毎年およそ140万人が挑み、合格できるのは約2万人にすぎません。西部ラジャスタン州の コタ には、全土から約10万人の若者が集まり、生活のすべてを受験準備に注ぎ込みます。高校に在籍しながら予備校生活を送り、早ければ小学生の段階から寮に入り、徹底した管理のもとで学び続ける。そこでは、「眠ることさえ勇気がいる」と言われるほどの緊張感が日常です。

 しかし、注目すべきは競争の激しさだけではありません。塾にはメンタルケアを担うメンターが常駐し、燃え尽きへの対応も制度として組み込まれている。競争は苛烈でありながら、同時にきわめて組織的なのです。偶然に委ねるのではなく、国家として設計している。約30年ぶりに刷新された教育政策は、若年層教育を戦略の中心に据え、AI教育を初等段階から導入する方針を明確に示しました。

 IITを巣立った人材は、世界のテック企業や研究機関の中枢へと進みます。とりわけ シリコンバレー では、インド出身者がAI開発の中心を担い、グローバル企業の意思決定層に数多く名を連ねています。彼らに共通しているのは、ROI―学びの投資収益率を常に意識する姿勢です。どれだけ学び、何を獲得し、それがどの進路につながるのか。その視点が、若い段階から徹底されているのです。

 重要なのは、競争そのものではありません。何を育てるのかを明確にし、それを制度として設計している点にあります。若年人口という量的優位に、国家戦略という質的設計を掛け合わせる。その構造が、AI時代を動かす人材を着実に生み出しています。

 知識が瞬時に検索できる時代において、単なる暗記力は決定的な力にはなりません。むしろ問われるのは、困難な状況でも立ち止まらず、他者と協働しながら、自らの思考を更新し続ける姿勢です。インドの若者たちが示しているのは、底知れぬ努力であると同時に、未来を具体的に描き切る力です。

 生成AIの時代に人間に残される価値。それは「問い続ける力」と「やり抜く力」にほかなりません。世界の動向から目を背けず、どのような力を育てるのかを定め、それを制度として設計し切る。その覚悟と責任が、いま教育に強く求められています。

 この動きは、もはや一国の成功物語ではありません。AIという新たな知の領域で、超競争社会をくぐり抜けたインドの若者たちが、グローバル企業の中核に立ち、AI時代を方向づける主役となりつつあります。若年人口という圧倒的な基盤と、明確な国家戦略。その掛け算がもたらす競争力は、今後さらに世界に大きな影響を与えていくでしょう。

 だからこそ、私たちも問わなければなりません。AI時代において、どのような人間を育てるのか。その問いに真正面から向き合うことこそが、これからの教育の出発点なのです。