校長ブログ

英語教育を考える67:辞書を引くのではなく、読む

2026.07.17 英語教育

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7月17日

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高2:今どき英語の辞書って必要なんですか? スマホで十分だと思うんですけど...

校長:便利な時代になったね。でも、"速く意味が分かる"ことと、"深く言葉を理解する"ことは、少し違うんだよ。

高2:深く理解する?

校長:そう。私はよく生徒に、"辞書は引くだけじゃなく、読むものだよ"と言っているんだ。

高2:辞書を読む...って、なんか変な感じです。

校長:でも実は、英語辞書というのは、単なる単語帳ではないんだ。言葉を通して、人間の思考や文化を映し出す"小さな知の体系"なんだよ。

高2:知の体系ですか?

校長:例えば、"culture" という単語を考えてごらん。日本語では単純に"文化"と訳される。でも英英辞典を読むと、社会的価値観、行動様式、芸術、さらには microbiological culture(微生物培養)のような科学的意味まで載っている。つまり、一つの語が複数の意味ネットワークを持っているんだね。

高2:確かに、和訳だけだと分からないですね。

校長:その通りだよ。言語学では semantic field、つまり"意味の分野"という考え方がある。単語は孤立して存在しているのではなく、他の語との関係性の中で意味を持つんだ。

高2:なんか大学の授業みたいですね...

校長:高校生にも十分分かる内容だよ。例えば "house" と "home" は、どちらも"家"と訳される。でも "home" には emotional attachment、つまり心理的な帰属感が含まれる。辞書を読むと、そのニュアンスが見えてくるんだ。

高2:あ、それ英作文で間違えたことあります。

校長:よい経験だね。語彙学習では、depth of vocabulary knowledge が重要だと言われている。単に意味を知るだけではなく、コロケーション、レジスター、語源、使用域まで理解して、初めて"使える語彙"になるんだよ。

高2:レジスター?

校長:場面や相手に応じた言語スタイルのこと。formalなのか、informalなのか、academicなのか、casualなのか。例えば "kids" と "children" は意味は近いけれど、論文では普通 "children" を使う。辞書には、そういう情報が丁寧に書かれているんだ。

高2:確かに、アプリだとそこまで見ないです。

校長:だから"調べて終わり"ではもったいないと思うんだよ。

高2:でも辞書って分厚いし、読んでると眠くなります。

校長:最初はね。でも、面白い読み方があるんだ。例えば語源をたどる。英語の "inspect" は、ラテン語の "spec"="見る"から来ている。同じ語源で spectator、respect、prospect などがつながっていく。すると単語が"点"ではなく"線"になるんだね。

高2:あ、それ面白いかも。

校長:さらに例文を読むことも大切だよ。例文には、その国の生活や価値観が埋め込まれている。つまり辞書は、言語教材であると同時に、文化教材なんだ。

高2:辞書って、そんなに情報入ってるんですね。

校長:そうなんだ。実は lexicography、つまり辞書学という専門分野まである。辞書をどう編集するか、どんな用例を採用するか、それだけで研究になるんだよ。

高2:辞書作る人って、すごいですね...

校長:本当にそうだね。私は辞書を読んでいると、"人間は世界をどう認識しているのか"が見えてくる気がするんだ。

高2:世界の見え方?

校長:例えば日本語では"水"と一語で言うものを、英語では water, hot spring, mineral water, wastewater のように細かく分ける場合がある。逆に、日本語のほうが繊細に分ける概念もある。言語は認識の枠組みなんだね。

高2:なんか、英語って暗記科目じゃないんですね。

校長:そう。英語教育は、単なる受験技術ではない。異なる世界理解に触れることなんだよ。

高2:今日ちょっと、辞書を開きたくなりました。

校長:それは嬉しいね。辞書を引く人は、意味を探している。でも、辞書を読む人は、世界を探しているんだよ。